ニードルフェルトでリアルな動物を作っています。 彼らの紡ぎ出すそれぞれの物語を、どうぞ聞いてください。
第40夜 * 風猫峠
2013年02月19日 (火) | 編集 |
昔、肥後の国阿蘇五岳には、猫のお山があった。
飼い猫が長じて、猫またになると、お山へ行って修行して、立派な化け猫になると言われていた。

兵佐(ひょうざ)のところのみぃも、そろそろ猫のお山へ行っていい年になった。
なにしろ、まだおっ父もおっ母も元気でいた頃からの猫だ。
兵佐は随分とこの猫を可愛がって育てた。歳の順に親を亡くし、一人になってからは余計にだ。

働いても働いても、兵佐の家は貧しくて、嫁に来ようという者もなかったが、兵佐は自分で器用に縫い物もこなし、おっ母の若い頃の赤い手絡(てがら)で、みぃに首輪をこさえてやった。

たたみの上のみい

みぃの方も、もちろん兵佐が大好きだった。
兵佐を置いてお山に行くのは嫌だった。
でも、みぃは優しくて賢い猫だった。ちゃあんと、考えがあった。

魔女にも良い魔女と悪い魔女がいる。みぃは猫またのうちでも、「良い猫また」になるつもりだった。
そして村の人が困った時は、神通力で助けてあげるのだ。
修行の間だけ、兵佐に会えないけれど、しばらくの我慢だ。
みぃは兵佐に別れも告げず、振り返らずに走り去った。

がんばるみいちゃん

お山の修行は、長く、厳しいものだった。
でもみぃは、早く兵佐に会いたい一心で、やり遂げた。
猫のおかしらは、みぃを呼んで、三宝に乗せたものを渡した。
それは、みぃにも見覚えのある…ここへ来た時着けていた、首輪だった。

「 山での修行は、もう終わりじゃ。これ以上教えることは、もう何もない。
よいか、これが最後の試練じゃ。
この首輪を、お前のことをこの世で一番好きな人間に、結び直してもらうのだ。
そうすれば、お前はもう立派な化け猫じゃ。
さぁ、行け、人間界へ!

…だが、いいか。
もしお前のことを、他の誰よりこの世で一番好きな人間が見つけられなかったら…
その時、お前の体は風にな… 」

みぃは、おかしらの言葉を最後まで聞くのももどかしく、首輪をかっさらって飛び出した。
懐かしい村へ…兵佐のもとへ。

みいちゃんアップ

みぃは風のように速く走り、次の瞬間には兵佐の家の前に着いていた。
ちょうど兵佐が、野良仕事を終えて帰ってきたところだった。
声を掛けようとしたその時、内側から戸が開いて、つましい身なりの女が現れた。

お客人では、ないようだった。
女は腕に何か大事そうに抱えており、それを覗き込んだ兵佐の顔は、一瞬でぱあっと、ほころんだ。
人間の、赤子だった。

みぃは、兵佐の家に入ることができなかった。
といって、最後の試練が果たせない今、もうお山へも戻れないのだった。
そうして、どこをどう歩いたのか、いつしか村を見下ろす峠の、一本の木の梢にいた。

あの日…修行に出たあの日も、みぃはここから、兵佐の家を振り返って、目に焼きつけたのだった。
あれは、どれほど昔のことなのだろう…。

ぽつり、ぽつりと、村の家に灯りがともりはじめ、兵佐の家にも灯りがついた。
思わずみぃは、「兵よぉー」と、声に出して呼んでいた。

ひょうー、ひょうぅぅ…
一声ごとに、みぃの魂が少しずつほどけて、声と一緒に兵佐の村へと飛んでいく。
みぃの体は、どんどん透き通って軽くなっていくのだった。
悲しみは、もう消えていた。
ただ、母が赤子をあやすように、いつまでも舌の上で、その名をころがしていたかった。

みぃの体はどんどん軽くなり、やがて、この世の重荷をすべて下ろし終えたとき、みぃはもう、目には見えなくなっていた。

ただ、高い木の梢に、小さな鈴のついた赤い首輪が、風に揺れて掛かっていた。

みいちゃん登場

今でも、この峠では、風の強い日には「ひょうー、ひょうぅぅ…」と、人の名を呼ぶ声のように聞こえることがある。
村の人は、「ほら、みぃが兵佐を呼んでいるよ」と、子供達に物語を語り伝える。
そんな時峠を見やると、いったい誰が掛けるのか、
一本の高い木の梢に、何かきらきら、小さな光るものが見えるという。

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