ニードルフェルトでリアルな動物を作っています。 彼らの紡ぎ出すそれぞれの物語を、どうぞ聞いてください。
第33夜 * じむねこさん
2012年02月22日 (水) | 編集 |
私の家から駅までの間に、細いY字路の角に大きな自動販売機の立っているところがある。
駅に行く時は大抵、急いでいる時なので、今まで注意を払って見たことは一度もないくせに、遠くから見てさえ、今日は何かが違っていた。
近づいてみると、目の悪い私にも、ようやくその理由が分かった。

じむねこさんー1

白黒の、若く美しい一匹の猫だった。
それが自販機の真ん前に、居ずまいを正して坐っていた。
頭はハチワレなのだが、よくある真ん中分けでなく、きっちり七三分けのうえ、白いYシャツに黒い腕カバーまではめた、事務員さんのような猫だった。

ほれぼれと見ていると、
「まず番号札を取ってからお待ち下さい!順番を取らないと、後から来た人が先になります!」と声がした。


じむねこハート


声は、猫からしていた。

こうした場合の常として、私は、あっけにとられた。
しばらく、時間が流れた。

猫は、私が札の取り方が分からないと思ったらしく、代わりに取ってくれた。
ごく自然に二本足で立ち、自販機のおつり返却レバーを両手でぐいと下げると、チャリンとプラスチックの丸い札が出てきた。
数字が刻印されている。

「29」
…私の前に、28人も待っているのだろうか?
くらくらしていると、

「はい。番号札をこちらへいただきます。」
猫は、いまくれたばかりの札をまたもぎとると、硬貨投入口へ慣れた手つきでチャリンと投げ入れた。

…この番号札は、いつ、誰が取っても、29番の一枚しか入ってないのではなかろうか。

「では、受領印を押させていただきます。」
猫は、事務の仕事が好きで、楽しくて仕方がないのが、見ていても伝わってくる。
そして私まで、何だか気持ちよく、嬉しくなってくるのだった。

猫は私の手を取り、ハンコでも押すように、ぽむっとお手をくれた。
すると、ほんのりうす紅色の、可愛い梅の花型が、手のひらに浮かびあがった。

それにしても、いったいこれは、何の事務手続きだったのだろうか。
「あのう…結局これは、何の順番だったの?」
「春を迎える、準備ですよ!
この梅の花が消える頃、ほんとうの梅が、満開になるんですよ!」

じむねこさんー3

ほんのりうす赤い梅の花びらは、それから何日も私の手のひらに包まれてあり、それを見るたびに私の心はほっこりした。
やがてその色が薄れて消えていく頃、本物の梅の花が一斉に咲き揃った。

あれから、じむねこさんに会いたくて、私はあのY字路を何度通ったことか。
でもこうした話の常として、じむねこさんの姿は二度と見られなかった。

じむねこさんに、もう一度会いたいなあ。
来年の今頃、また会えるかなあ。

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じゃむねこさん、じゃ、ないよ。
じむねこさん、だよ。
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